聞くことも表現のうち


先日4月18日の開催された、私の所属する岳智会の「第45回新人吟詠発表会」(毎年1回行われ初伝以下の新人さんが発表、コンクール形式で上位三名が選ばれる)に、ナチュラル詩吟教室から15名ほどが参加しました。


結果、上位2名にナチュラル詩吟教室の生徒さんが選ばれ、 大変喜ばしいものとなりました。


それと同時に大きな学びがあったので、ここにまとめたいと思います。


まず、上位に選ばれなかった人も含め、参加した全ての人が、ホールの晴れ舞台という場で、ただ一人歌う、という非日常に挑戦したことが最も有意義で、緊張したり、高揚したり、という日常ではあまり得られない感情の振れ幅に出会えたということではないでしょうか。


そして、今回顕著だったのが、所謂美声だとか、歌が上手い(ここでいう歌とは、日常で聞くカラオケや学校で習う合唱のような歌)人が評価されるわけではなく、味のある詩吟、笠智衆のような詩吟(今回の評価とはだいぶ異なりますが)が評価されたということです。


この発表会では、オリンピックのフィギュアスケートや、全国的なレコード会社主催の詩吟のコンクールのような厳密な審査ルールは存在せず、その年ごとの審査員の評価(意向)に沿うものであり、毎年どうなるかが全くわかりません。


だからこそ、結果はあまり気にしないで、やることに意味があるのですが、それでも、初めて参加された生徒さんから、「なぜ、所謂、”歌が上手い”というものが、詩吟では評価されないのか?(論理的に説明せよ、と言われた感じ)」という疑問をぶつけられて、むーん、と考えてしまいました。


考えた末、その発表会に参加しなかった、わりと高齢の、味のある詩吟をやる生徒さんとそのことについて話した結果、答えが明確に表われました。


それは、


「詩吟とは、非論理的なものである。」


ということです。


つまり詩吟とは、そのような非論理的世界を楽しむ場なのかもしれません。


とは言え、詩吟をして発表会に参加するためには、型(ルール)を 守らねばなりません。それは教える側が伝えるべきところです。しかし、それ以上の部分はどうするか。


それは、吟ずる本人が発見せねばなりません。


こればっかりは教えたくても教えられません。


教えつくしたとしても、自ら捕まえにいかなければ身になりません。


誰にもわかりません。本人の、あーーーっというつかんだ感覚でしかありません。


教える側の私がサジを投げているわけではありません。 そういうものなんです。


あと、どうしたって環境も影響しますよね。影響せずにどこでも上手くやれればベストですが、聞いてもらいたい人の前の方が上手くいく場合もあるし、その逆もある。


それでいいと思います。


上手くいったー!とか、いかなかったー!とか、いいって言われたーとか、そうじゃなかったとか、きっとどれもひとつの経験で、とかく何か新しいことを経たには違いなく、これまでと違う未来が待っているわけです。


それと同様に最も大切な一つに、このような発表会では、他の人の詩吟が聞けるということです。この人の詩吟はいいな、とか、これはあんまりだな、とか、そういう耳を鍛えることがとてつもなく重要になってきます。


なぜなら、聞くことも表現のうち、だからです。


どのようなものをいいと思うか。


それは、例えるなら、どのような詩を、文章をいいと思うか。


それを選んだ時点で、自分の表現は半ば決まったといっても過言ではないのです。


その影響は自分の表現に顕われるし、何を選ぶかが、自分の道筋となってくる。


だから新人さんは迷ってしまいます。何がいいのかがわからない、と。


だからこそ、それを考える場が、新人発表会なのです。


そういう意味でも多いに学べるのがこの発表会なのであります。そしてその答えはひとつではない。各々が考えるものであるのです。


こんな偉そうなことを言っておいて、私自身も午前中の「新人さんでない枠」で発表したのですが、恥ずかしながら思うようにできず落ち込みました。 くやしー!という思いで今はやる気満々で、ものすごくスキルアップしている気がします。


”人前で吟ずると6倍上達する”という魔法の言葉は、こういう由縁だったのかもしれません。


そんな私でもとても学びになったのは、"聞くことも表現のうち"、という意味で、「新人さんでない枠」で吟じていた憧れの先生の吟を久しぶりに聞いて、猛烈に影響を受けました。彼は伴奏を一切付けません。出たままの声で規律として抑制をかけながらも情熱に吟じます。


大変偉い先生なのですが、今でも私のような小人に「自分も精進するからあなたも頑張って」と声をかけてくれます。


口数の少ない先生ですが、彼から教わったことほとんどすべてを受け継ぎ、伝えているつもりです。だからこそ、自信が持てるし、詩吟を、少なからず伝統として、皆様に伝えることに意を決しているのだと思います。


難しいことはさておき、上位入賞した生徒さんから嬉しいメールが届きました。


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4/18という目標に向かって積み重ねてきたお稽古の日々の全てが愛おしいです。

詩吟で自分の声に本気で向かい合うようになって、どうやら自分をまるごと肯定できるようになったようです。

声の出し方とか気持ちの込め方とか考えるうちに、他人に対する声の掛け方や言葉の選び方にまで思いを馳せる余裕が出てきたからでしょうか。

自分本位のこの私が、少しは優しくなってきたような気がします(笑)

心に余裕を持つことってとっても大事なのですね!

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なんだか嬉しくて笑顔になりました。詩吟をやっててよかったなあ、と幸せをかみしめています。


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