情熱とちくわのあいだ

ちくわになるにはあくびの喉で
 
今年に入って木曜と日曜は青山教室なるものをはじめました。教室は広くなって徐々に人も増えたりして楽しくやっています。

いろいろな時間帯にできるので、年齢別やスタンス別、内容別にクラスが分けられて、そこから仲良しの輪が広がっていったりしたらいいなと思っています。

とは言え、詩吟は一人でやるものでもあるので、輪の中にいても一人、みたいなスタンスでもいい。 というかそもそもそういうものなのでもあります。なのでワイワイ系でない人もぜひ来て欲しいです。


そして、3月初旬には四年ぶりの昇段試験を受けました。


そしてそして、今大きな原稿の締切を迎えるなどして、切羽詰まっているのでブログを書いて冷静を取り戻そうとしています。


そしてそしてそして、相変わらず、詩吟とは何か、について日々考えているのであります。


最近見つけたテーマは、


詩吟とは、


「情熱とちくわのあいだ」


です。


力強い声を発するには情熱が必要だ。
だけれども、力の抜けたふにゃふにゃの「ちくわ状態」であることも必要。


冷静と情熱のあいだ……。


否、「情熱とちくわのあいだ」である。


先日、久々に驚いたことがありました。


とても声の小さかった生徒さんが、急に破裂するような大きな声を出したのです。


何事かということでわけを聞いてみると……、


彼女が詩吟を習う以前より本腰を入れていたオペラ教室に新入りが入りました。しかもその新入りというのがロック畑出身のド素人。


練習中には譜面も見ずに、対訳本を「ふんふふん」なんて調子で眺めている。かく言う彼女は毎度譜面を覚えるのに必死である。


そんな新入りが自身初の発表会の見せた歌声。
それがあまりにも素晴らしく、オーディエンス賞をかっさらった勢いだった、とのことでした。


地道に練習してきたその生徒さんも、ご多分にもれず感動してどうしたか。


譜面をかなぐり捨てたそうです。


西洋音楽畑出身の彼女は、歌ないし音楽と言えば譜面におこさずにいられない。譜面をおこすのが当り前。譜面通り歌わないなんてもってのほか、という人でした。


そんな彼女が、「歌はロックだ!」「歌は耳コピだ!」と確信した結果、今までにない、びっくりするような大きな声が出るようになったのでした。


今までの彼女は、詩吟を練習する際にも、ドレミの譜面におこしていました。それを一切やめて、(譜面の読めない)バンドマンが耳で聞いて名曲をカバーするが如く、録音した詩吟のお手本を耳で聞いて真似した結果だというのです。


詩吟には一応譜面のようなものはありますが、声をどんだけ伸ばすかとか、どのくらいの強さ、大きさで歌うとかいうことは一切書いてありません。


だからこそ、「口伝」であり、大切なのはその強さを伝える「情熱」です。


大きな声を出せ出せと言っていた私は唖然としました。


そんな言葉は通用せず、ただ彼女を変えたのは、強い憧れと情熱だったのです!!!



でもですよ、ここで注意が必要なんです。だいたいですね、情熱ばっかりでやっていたら絶対こけますよね。たまーに情熱いきすぎた詩吟をみますけどあれは間違いですよ。


上手な人は、そこに冷静さも持っているのです。


それはもう詩吟やオペラに限らずいろいろな分野に言えることでしょう。


特に荒荒しさを見せてはいけない武道、剣道などはそうです。


まあ、しかしですよ。


この「情熱とちくわのあいだ」というのがまあ難しいわけです。


3月初旬に四年ぶりの昇段試験を受けました。


もう何度も受けているはずなのに、まあ緊張すること!


自分としては、相当分予習していきました。実際には思ったよりずーっと簡単な試験が出たのですが、思わず硬くなってしまうのです!


「わからない!どうしよう!やっちまった!」


と。後でよくよく見てみればわかるんですよ。


 そして試験中は審査員の先生に質問はNGが基本です。


「どこまでですか?」


間髪入れずに声に出してしまう……。


平然を装っている様が更にかっこ悪い……。


何年やっても失敗ばかりです。


でもね。


詩吟でド緊張してると、普段の生活の中のここぞという場であまり緊張しなくなるという効用があるんです。


詩吟の失敗や緊張はもちろんしんどい。でも、いざという本当に大切なときに上手くいったりする。


そもそも、そういういざというときの精神力をつけるためのものだったのではないかなあ、と思うことが多々あります。


昇段試験ではうっかりNG質問してしまったのですが、詩吟自体はちくわ方式でやったらとっても上手くいきました。歌いながら緊張がとけていくのがみるみる感じられたことが忘れられません。

最近は、情熱を込めながらも非常に落ち着いた詩吟をする年配の先輩方をみて、詩吟がいかに無駄な力を使わずして声量を出すか、声を長続きさせるか、というための技のためのものだということに着目しています。


とにかく難しいのが、力を抜く努力です。


我々は日々の生活で力を抜くということをあまりしません。だから難しいのです。


情熱を入れるのはむしろ簡単、ちくわになるのは難しい。


しかし、これを両立させるのが詩吟です。


そしてマスターすれば、きっとどんな場面でも、落ち着いて思い通り事が運べるのでしょう。


私も修行中です。


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